みんなで決めよう!JR新駅設置住民投票~北本市民の選択

北本駅西口

左から3人目が石津市長(2014年1月30日北本市役所にて)

北本市は、埼玉県の中央部に位置し、高崎線の北本駅を中心に市街地が形成されています。人口7万人弱のまちで、昨年1215日に市長発議の住民投票が実施されました。テーマは、長年の懸案事項である高崎線の北本駅と桶川駅の約4分間に新駅をつくるか否か。

投票結果は、賛成8,353票、反対26,804票により、反対多数となりました。(投票率62.34%)

自治基本条例に基づき、住民自治の観点で実施するという市長提案の住民投票条例には、成立要件などない、至ってシンプルな条例です。市長も「市長発議なのだから、例えば50%ルールを設け、開票しないというのはおかしい。だから50%ルールを設けなかった」そうです。

 石津市長は、新駅をつくることに賛成の立場です。しかし今回の結果を受け、下記のようなコメントを市長は市民へ出しました。

【市長コメントより抜粋】市といたしましては、総合振興計画にも位置づけ、市議会においても全会派一致で新駅設置促進の議決がされており、これまで新駅設置に向けた取り組みを行ってまいりましたが、総額で72億円という一大プロジェクトであることから、住民自治の観点から改めて市民の皆様にご判断いただくべく、住民投票を行ったわけでございます。
 住民投票条例におきましては、「市長はその結果を尊重する」とされておりますし、これまでの市議会等において述べさせていただきましたとおり、一票でも多い方の意見に従うとしてきました。従いまして、今回の結果を受けまして、この度市民の皆様にご提示した新駅建設計画については白紙とし、今年度中に行うとしていたJR東日本への要望書の提出は行いません。

  さて、なぜ石津市長は住民投票を実施するに至ったのか、真意を伺ってきました。

今回住民投票に至る3年前に、約5億円の事業である北本駅西口の改修工事への反対運動が起こりました。市議会で10数回以上も議会で各議員の意見を聞きながら修正してきた計画でした。議会で合意形成を丁寧にしていったのですが、市民の反対とともに議会でも一部の議員も白紙撤回を要求してきました。当時反対派市民による街宣車も回ったそうです。そのことが市長選挙の争点となり、石津市長が当選し、計画どおり西口の開発はされました。

新駅は、20年以上前からの念願のものですが、西口改修工事の10倍以上費用をかける事業。西口改修の時のように政争の具にさらされるであろうことは予想されます。ならば、住民に必要かどうか聞いてみようと石津市長は決断しました。今まで全会派一致で計画してきた市議会は、西口改修工事の経験と市長の説得で住民投票条例に賛成したそうです。なんでも市長や議会で責任を負うのではなく、北本市民、みんなで考えよう!と石津市長は言います。新駅を作りたかった市長は、住民投票をすると決断したあとも悩みに悩んだそうです。本当に正しかったのだろうかと。

しかし実際に住民投票をして、市民は正しかったときっぱりと発言していました。ある哲学者のことば「民衆は抽象的な問いかけには間違うことが、具体的な問いかけにはほとんど正確な答えを出す」ということを市長は引き合いに出していました。投票率も市長選挙より高かったこと、また市民も今回の住民投票を通じて、市の財政への関心度が上がったこと等、住民自治が半歩進んだと市長は評価していました。
さらに市長は、衆議院選挙や参議院選挙と同時に住民投票をすればいいと言います。今回の住民投票で1280万円の費用がかかりましたが、同時にすれば費用も最少で済ませます。欧米のように政策を住民投票で「みんなで決めよう」という市民参加型の前向きな姿勢の市長にこれからの参加型の政治の手法として、やっぱり住民投票を基礎自治体で取り入れるべきだと思いました。

 ただ石津市長には、常設型の住民投票条例制定の考えはありません。住民投票で決める案件はそう多くはないだろうとの考えです。その点においては、住民の権利として、常設型の住民投票条例も制定してほしいと私は思います。

 さて市長と会う前に、市役所までの道すがら、市民の方に住民投票について聞いてみました。北本市に住んで10年という60代女性の方は、「桶川と北本間4分間に新駅をつくるといってマンションも建設された。そこの住民はかわいそう。でも今更新駅をつくる必要はあるのか。」と話してくれました。北本中学3年の女子生徒二人は、住民投票のことを学校で投票へ行こういう用紙が配布され、知っていました。「お父さんは新駅が必要。お母さんは将来の税金の負担のことを考えて反対」「お母さんは市税が上がるから反対」と家の中で議論されていたそうです。住民投票をすることで、将来のまちの担い手にも影響していました。明らかに新駅建設への関心は、いろんな世代に広がっています。住民投票は、今までのように反対派のための道具ではありません。時代は変わってきています。