熟慮する住民~原発建設計画を白紙撤回した巻町

巻原発予定地だった東北電力敷地前(2014年2月7日)

笹口元町長が経営する笹祝酒造会社にて(2014年2月7日)

笹口元町長からお話を伺いました(2014年2月1日 さよなら原発江戸川にて)

 原発建設計画を白紙撤回した巻町
 
現在新潟市に合併された新潟県西蒲原郡巻町は、豊かな田んぼが広がり、日本海の恵みもある食料の宝庫です。そこに原発建設計画が立てられ、日本で初めて常設型の住民投票条例で原発建設の是非を問い、住民が原発に「ノー」と言ったまちです。建設計画予定地だった町有地を原発反対派の複数の住民へ売却し、実質東北電力は原発建設できなくなりました。住民は主権者としてよく勉強をし、何度も何度も諦めず、自主管理の住民投票、常設型住民投票条例制定、町長リコール、住民投票条例制定への公約違反した議員のリコール、住民投票実施等、民主主義の手続きを一つひとつ踏みました。住民が熟慮し、住民投票を実施したときは、住民は町有地が争点であることの問題の所在を理解していました。そして原発建設計画を白紙撤回しました。

 

熟慮する住民
 
巻原発の計画は、東北電力が1971年に巻町の角海浜に発表したことから始まります。二度の土地論争を踏まえ、巻町議会、町長は建設に同意し、建設反対をしていた漁協は補償に応じて、次々と建設同意へと転じました。東北電力は1982年に原子炉設置許可申請を通産省に提出、安全審査が始まりました。その後10年安全審査が中断されていましたが、3期目の佐藤莞爾町長の公約で「世界一の原発を作る」と掲げ、原発建設計画が動き始めました。町長選挙は、推進派の現職町長と原発慎重派と原発反対派の2人の候補者が闘い、原発反対の住民の声は2分されました。そして推進派の佐藤莞爾町長が3選を果たし、原発計画が現実化してきました。

 原発建設の計画がいよいよ具体化したことを心配した、どちらかといえば保守層の住民が子どもや孫への影響を心配し、原発建設はみんなで決めるべきだと「住民投票を実行する会」を立ち上げました。7人で100万円ずつ出し、プレハブを建て、リソグラフを購入し、自主管理の住民投票を実行しました。当時原発に反対していた6団体も、住民投票の一点で一つになりました。そのことは推進派にとって脅威でした。毎日のように新聞に原発の賛成派反対派がことのチラシが入れられました。当時巻町の住民は、朝の新聞に入る原発のチラシを仕分けるところから始まったと聞きました。毎日45枚のチラシが入ったそうです。原発反対派のチラシは、サラリーマン等仕事を終えた住民が手弁当で作成していました。住民へ情報を出し続けました。とにかく住民は、原発への正しい知識を得ることができました。十分に考えるだけの素地がありました。

 そういう中、20年前の1995年2月5日に自主管理での住民投票を実施。投票総数10378票で、建設反対9854票、賛成474票の結果でした。しかし法的根拠がないという理由で佐藤莞爾町長は町有地売却に強行に踏み切ろうとしました。

 そこで間近に迫った町議選に公約で住民投票条例を実施する候補者を擁立し、当選しました。しかし当選後その議員たちが公約を反故にし、議会は原発推進派が多数を占めることになりました。住民投票条例は制定されたものの「町長が議会の同意を経て住民投票を実施する」という文言に変えられ、実質住民投票が実施されないものとなりました。いよいよ町有地売却を佐藤莞爾町長の権限で行うことが現実味を帯びてきました。

 町長リコール、そして日本初の条例に基づく住民投票を実施
 
そこで動いた住民です。佐藤莞爾町長をリコールし、辞職しました。その後誕生したのが、地元笹祝酒造会社の蔵元であり、住民投票を実行する会の笹口孝明町長でした。笹口さんは、住民投票条例に基づき、原発建設の是非を問う住民投票を行いました。当時賛成派は、有名人を使い、お金もふんだんに使います。

 しかし熟慮してきた住民は、主権者として正しい判断をしました。単なるアンケート調査ではないことを住民はわかっていました。投票率は88.29%、反対12478票(60.86%)、賛成7904票(38.55%)という結果でした。民主主義の学校と言われた巻町ですが、笹口さんは、やっと普通の町になったのだと当時のことを話してくれました。そしてさらに町有地が争点だと住民もわかっていたのだと言います。住民投票で勝つ確信がありました。

 その後の巻町
 当時
笹口町長は、東北電力へ巻町は住民が原発建設へノーと決断したことを伝えました。しかし町有地がある以上、東北電力は原発建設を諦めなかったのです。そこで町有地を原発建設反対の住民へ売却しました。東北電力の原発建設予定地の中心部に町有地がなくなり、2003年にやっと東北電力も巻原発の計画を断念しました。

 当時を振り返り住民は、原発建設計画の賛否について、「みんなで決めたから良かったのだ。」と言います。主人公は住民であり、本当の決定者は住民なのです。一人ひとりが自分の問題として考えることが大事なのです。もっとも被害を受ける人のことを考え、判断せねばなりません。

 さて住民投票直後は、原発建設に「ノー」と言ったことに対し、原子力懇談会の副会長であり、巻町の商工会会長は、「原発を建設すれば巻が活性化され、景気は良くなったはず。みんなもそう言っている。」と笹口町長へ言ってきたそうです。しかし福島第一原子力発電所事故以降、原発建設賛成派だった巻の住民は「原発計画を白紙撤回にして良かった」と言っています。

 住民投票について、代議制民主主義を否定する、衆愚政治だと非難する人がいます。しかし果たしてそうなのでしょうか。議会は住民代表として、当然住民の声を聞きます。住民の声を十分聞きとる手段として住民投票は有効です。また原発は国策だということをいう人もいます。そこに住む住民の生命、財産、健康を犠牲の上の国策なんてありえないのではないでしょうか。住民投票で原発ノーという住民の判断は正しかったことは20年近くたって確実に証明されました。

*巻町はじめ各地の住民投票については、国民投票/住民投票情報室のHPをご覧ください。http://www.ref-info.net/